「CFRPは水に強いのか。」
この問いに正確に答えられる人は、普段からCFRPに携わっている研究者や技術者の中にも多くはいないでしょう。実際、GFRPも含めればボートや浴槽、タンクなど、水に触れる箇所で使われるケースは多く見られます。
この問いについて研究した「On the relationship between moisture uptake and mechanical property changes in a carbon fibre/epoxy composite」という論文があります。その論文では以下のような研究を行い、以下のように結論付けています。
- 炭素繊維/エポキシ樹脂のCFRP試験片を60℃の水に浸漬し、促進老化試験を行う。
- Tg(ガラス転移温度)、4点曲げ弾性率、曲げ強度を経時的に測定し、破断面をSEM観察、促進老化試験前との比較を行った。
- 結果、CFRPの水による物性低下が確認され、物性低下の過程を時系列でみると3つの段階があった。
- 初期の段階Iでは、樹脂を介した自由水の拡散が起こる。Tgの急激な低下がみられ、曲げ強度の低下も早いが、複合材料の曲げ弾性率はほとんど影響がなく、むしろエージングにより上昇する。破断面の炭素繊維における樹脂の付着は良好。
- 段階IIは、繊維と樹脂の界面で水がますます結合する移行領域である。曲げ弾性率の低下が著しくなる。Tgや曲げ強度の低下もみられるが、段階Iほど大きくは無い。破断面の炭素繊維における樹脂の付着が段階Iに比べて少なくなっている。
- 段階IIIでは、過剰な自由水が繊維-樹脂界面に蓄積し、吸水率を上回る。界面の劣化が進行し、曲げ弾性率と曲げ強度の低下が更に進み、やがて収束する。Tgも低下するが、段階Iよりは緩やかで段階IIと同程度。最終的に曲げ弾性率は初期の90%、曲げ強度は80%の低下がみられる。破壊面は繊維の引き抜けが発生している。

On the relationship between moisture uptake and mechanical property changes in a carbon fibre/epoxy composite
水による物性低下の要因は以下のとおり。
- Tgの低下:樹脂を介した自由水の拡散が支配的
- 曲げ強度の低下:結合水相による繊維/マトリックス界面の劣化
- 曲げ弾性率の低下:結合水相による繊維/マトリックス界面の劣化。
ただし、当初ほとんど影響を及ぼさない
CFRPの用途が拡大していく中で、様々な環境で用いられることが予想されます。そんな中で、「CFRPは強い」という漠然とした認識、裏付けの弱い感覚的判断は、時に大きな落とし穴になる可能性があります。
用途開発が進むと基礎的な検証は軽視されがちですが、一方で、用途開発とは基礎的な検証の積み重ねにより成立するもの、という点も頭に入れておきたい部分です。
参考文献
- Journal of Composite Materials, Volume 56, Issue 14 First published online April 22, 2022
On the relationship between moisture uptake and mechanical property changes in a carbon fibre/epoxy composite
J E Bone1,2,3, G D Sims1, A S Maxwell1, S Frenz2, S L Ogin3, C Foreman3 and R A Dorey3
1 National Physical Laboratory, Teddington, UK
2 Element Materials Technology, Hitchin, UK
3 Mechanical Engineering Sciences, University of SurreyUniversity,
Guildford, UK
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00219983221091465