繊維も樹脂も全て熱可塑性樹脂で複合化したら、果たしてどのような材料になるだろうか。
本記事では、この内容について研究した論文「Understanding the impact properties and damage phenomenon of ultra-lightweight all-thermoplastic composite structures」を紹介します。
繊維強化複合材料は、炭素、ガラス、ケブラーなどの様々な強化材を、熱硬化性樹脂や高性能熱可塑性樹脂マトリクスと組み合わせて製造されます。熱硬化性樹脂は機械的特性に優れていますが、非常に脆く、層間剥離を起こしやすく衝撃に弱いという欠点があります。対照的に、熱可塑性樹脂は、耐衝撃性と損傷耐性に優れています。
この研究では、マトリクス樹脂としてARKEMA社のElium®樹脂を使用し、エポキシ樹脂を比較対象としました。繊維としては、超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリプロピレン、ポリエステルなどを使用しました。これらの材料をVaRTMで成形し、以下の結果が得られました。
・完全熱可塑性プラスチック複合材料は、高い破壊靭性を示し、損傷開始が遅延。
・高衝撃エネルギーでは、ピーク荷重到達時にインパクターの大きな反発が見られました。試料は主に面外方向に破壊し、熱可塑性ファブリックの拡張可塑性により、表面の引き伸ばし破壊が発生。
・PE/ELCおよびPES/ELCでは、損傷は主に表面破壊に限定されるが、エポキシ樹脂、特にPP/EPC複合材料では、破壊がより壊滅的。
・ELC複合材では、強固な繊維マトリックス接着が観察されたが、EPC複合材では、繊維の引き抜きと露出が確認される。
完全熱可塑性プラスチック複合材料は、従来のエポキシベースの複合材料よりも優れた衝撃特性を示し、製造、溶接、熱成形、リサイクルの利点があります。これらの特性は、スポーツ用品、弾道装備、自動車などの軽量で高耐衝撃性が求められる分野で重要です。
材料の選択は多様であり、「どの部分にどの材料が適しているか」を考える必要があります。炭素繊維は引張特性や曲げ剛性に優れますが、衝撃に弱いです。化学繊維や熱可塑性樹脂は、衝撃や靭性に優れ、さらにコスト効率も良いです。これにより、材料の選択の幅が広がり、適材適所での利用が可能となります。
引用元
- International Journal of Impact Engineering Volume 172, February 2023, 104405 Understanding the impact properties and damage phenomenon of ultra-lightweight all-thermoplastic composite structures
- Goram Gohel a, Somen K. Bhudolia a, Kah Fai Leong a, Pierre Gerard b
a School of Mechanical and Aerospace Engineering, Nanyang Technological University, 50, Nanyang Avenue, 639798, Singapore
b Groupement de Recherche de Lacq, Arkema, Route Départementale 817, BP 34, 64170 Lacq, France