CFRPの実態を捉える

〜あいまいな理解から、概要を理解するところまで〜

CFRPは、「カーボン」「炭素繊維」etc..業界やグループ、人によって様々な呼ばれ方をしていますが、正式には炭素繊維強化プラスチック(CarbonFiberReinforcedPlastic)という名前です。

ここでは、「そもそも、そのCFRPという材料は、どのようなものなのか。」というところから、その実態を大まかに捉えるところまで、簡単に説明をしていきます。

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CFRPとは何か

CFRP」というのは抽象的な単語

多くの人は「金属」と言われたときに「どの金属のことを言っているの?」と考えるのに、
「CFRP」と言われたときに「どのようなCFRPのことを言っているの?」とは、あまり考えません。

しかしながら、CFRPというのは、実は金属と同じく、とても抽象的な単語です。
一口に「CFRP」というと、「CFRP」という1つの材料があるように思えてしまうのですが、実際には「CFRP」という単一の物性を呈する材料は存在しません。

CFRPを構成する材料は主に「炭素繊維」と「樹脂」ですが(上図を参照)、CFRPに使う炭素繊維の違い、樹脂の違い、形状の違いなどによって、出来上がるCFRPの物性には、それぞれ違いが生じます。

CFRPの基本要素

#1 炭素繊維


#2 樹脂


#3 設計の考え方


#4 成形方法とコスト


#1 炭素繊維

CFRPを構成する主要素である「炭素繊維」には主に以下の2種類があります。

  • PAN系繊維
  • ピッチ系繊維

* PAN(ポリアクリロニトリル)
* ピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)

炭素繊維は、大まかに説明すると、有機繊維を原料として不活性雰囲気下(燃焼しない環境下)で
炭素(C)を脱離させて作られています。(下図を参照)

炭素繊維(PAN系)の作り方概要

繊維ごとの物性分布のイメージ

PAN系は剛性が高く、ピッチ系は弾性が高めの傾向があります。

CFは、種類やグレードによって性質が全く異なります。
同一グレードの繊維であっても設計によってCFRPの中で発現する性能が変わります。

#1 まとめ

CFをCFRPの材料として利用する場合、
数多あるグレードの中からCFRPに付与したい性質を有するものを選択する。

#2 樹脂

樹脂には以下の2種類があります。

  • 熱硬化性樹脂
  • 熱可塑性樹脂

熱硬化性樹脂は化学反応によって硬化し、
熱可塑性樹脂は加熱によって溶け(軟化し)、冷却によって硬くなり(硬化し)ます。

ここでは、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の特徴を示します。

熱硬化性樹脂の性質

熱可塑性樹脂の性質

#3 設計の考え方

CFRPの設計をするためには、従来の材料にはない新しい考え方(認識)が必要になります。

  1. CFRPは複合材料である
  2. 積層設計をしないと強度が決まらない

1. CFRPは複合材料である

CFRPは、炭素繊維と樹脂の複合材料であるため、
金属などの単一の材料から構成されている材料とは大きく性質が異なります。

最も大きな特徴は「異方性」です。

異方性のイメージをつけやすくするため、
CFRPより身近な複合材料(複合構造)である鉄筋コンクリートを例に、その性質を見ていきます。

長手方向(横向き)に鉄筋が配向された鉄筋コンクリートに対して、矢印の点と方向に力を加えた場合
Check

長手方向に鉄筋が効いて、鉄筋コンクリートの破壊が抑制される

鉄筋がなければ簡単にコンクリートを脆性破壊するまでに変位させることができ、結果的に割れてしまうが、上図では、鉄筋によって変位が抑制された結果、通常のコンクリートと比べて、破壊に至るまでの余裕がある。

同じ鉄筋含有量の鉄筋コンクリートに対して、長手方向に鉄筋が入っていない場合
Check

長手方向の鉄筋が効かないので、コンクリート並みの力で破壊する

鉄筋が同じ含有量の鉄筋コンクリートであっても、それが適切な方向に入っていなければ、全く違う物性を示すことになります。

・鉄筋コンクリートは鉄筋が効く場合のみ、通常のコンクリート以上の物性を示す。
・CFRPも同様に、炭素繊維が効く場合のみ、樹脂の変位が抑制されるため、通常の樹脂以上の物性を示す。

異方性材料とは、切り出す方向や部位によって異なる性質を示す材料のことです。

対象的に、金属材料のように、方向や部位に関係なく等しい物性を示す材料のことを
等方性材料といいます。

要するに、複合材料であるCFRPの内部には炭素繊維と樹脂が含まれているため、その物性には、炭素繊維の向きが関係してくる(つまり異方性がある)ということです。

2. 積層設計をしないと強度が決まらない

通常、何らかの設計をしようと思った時、文献、データシート、ネット上にある材料の物性値等を参考にして計算を行うと思いますが、CFRPは、自分で物性値を決めるための設計をする必要があります。

CFRPは、標準的な物性を用いれば強度計算が出来る等方性材料とは異なり、
標準的な物性が定義できないため、狙いのスペックがなければ設計のしようがありません。

CFRPの材料設計は、狙いのスペックを考慮し、成形品の断面を層単位で分割し、各層の繊維の種類、繊維の向き(繊維配向)を考慮して行います。
CFRPの成形はシート状の材料を積み重ねて行うため、これを「積層設計」と呼びます。

CFRP設計の概略

・成形品がどのような力を受け、どのような環境で使用されるかを明確化
・最適かつ成形が可能な形状を決定し、狙いのスペックを決定
・そのスペックを満たすために、使用する繊維の選定、繊維配向を考える(コスト含め)

#3 まとめ

慣れ親しんだ等方性材料の設計とは異なり、積層設計が必須である。
積層設計をしなければ、その設計は絵に描いた餅となる(可能性が高い)。

#4 成形方法とコスト

製品によって、最適な成形方法を選択することが重要です。
ここでは、装置を用いた成形方法の概要とコスト感をご紹介します。

成形方法について

成形の基本要素

加熱
・樹脂を化学反応で硬化させる (熱硬化性樹脂)
・樹脂を温めて軟化させる (熱可塑性樹脂)
冷却
・樹脂を冷やして硬化させる (熱可塑性樹脂)

加圧
・材料に形状を付与する
・樹脂内の気泡を抜く・つぶす


オートクレーブ(AC)成形

電気ヒーター等を熱源として容器内の空気を加熱して、間接的に材料を加熱する

容器内を圧縮空気で満たし、空気によって加圧する

オートクレーブ成形のメリット

高品質製品を比較的簡単に成形可能。
プレスより、複雑な形状に対応可能。

プレス成形

金型で加熱し、材料を直接加熱する

プレス圧で、材料を加圧する

プレス成形のメリット

超大量生産に対応可能。
材料によっては数分、数十秒というレベルで成形可能。

オーブン成形

電気ヒーター等を用いた間接的な加熱方法(AC同様)

真空バッグを形成して真空圧をかける、型を機械的に締める、熱膨張を利用して熱をかけるなど

オーブン成形のメリット

設備費用がオートクレーブより安い。
オーブン内部が加圧されていないため、工程をスムーズに設計可。

コストについて

設備導入のイニシャルコスト

・高い精度と量産性が不要な場合には、オーブンでも十分である
・製品の品質安定のためにACを導入する選択肢はアリ
・短納期大量生産をするには、プレスが必須

製品ごとのイニシャルコスト

・製品ごとのイニシャルコストは、金型の価格が支配的
・プレスの金型は高価になりがちなので、大量生産でないと採算が合わせにくい
・オーブン成形、AC成形の場合は、金型が安いので少量生産を受けやすい

#4 まとめ

それぞれの成形方法を採用するということが、生産上どのような意味を持つのかということを理解しておくことが重要。


不明点・違和感のある箇所など、お問い合わせください。